「社会って温かい」と、
子どもに伝えたい
| 中根 翔子さん(愛知県)

今回、お話を伺ったのは、教員や地域づくりのNPO、若者の就労支援といった「人と社会」に関わる道を歩んできた、中根翔子さん。

現在、一人の親として0歳のお子さんと向き合う彼女が、親になって初めて感じた「喜びと大変さ」を交えながら、「子育てと地域でのつながり」についてお話をしてくれました。

「毎日が学び」という、親としての新しい旅

お子さんを抱きながら、中根さんは日々の暮らしの中にある「親であること」の喜びを、柔らかな表情で語ってくれた。

「毎日、可愛いなって感じています。日々変化があって、笑ったり泣いたりする姿を見ているだけで幸せですね」

しかし、その喜びと背中合わせにある、親としての「しんどさ」。現代ならではの悩みとして中根さんが挙げたのは、溢れかえる情報。

「調べれば調べるほどきりがないし、相談しても人によって正解が違う。最後は自分で決めるしかない難しさを感じています」

これまで、多くの人を支える側として活動してきた中根さんにとっても、親という役割は当然、「初めての経験」の連続。

分からないことばかりだからこそ、お子さんと一緒に学び、その瞬間の最適解を選んでいく。

現代の子育てを生きるパパママが抱える大変さ。
中根さんもその中で、子どもと一緒に、日々、親としての成長を続けている様子が垣間見えた。


根底にある「社会」と「人」への好奇心

中根さんのキャリアを紐解くと、中学校の社会科教師、地域づくりのNPO、そして若者の就労支援と、一貫して「人と社会」に関わる仕事を選んできた。その興味関心の根底には何があるのだろうか?

「根本にあるのは、社会科が大好きということです。旅が好きなのも、結局は社会のこと、地域のこと、つまり人の価値観や歴史、文化を知ることが楽しいから。人の話を聞くことも、その人のヒストリーに触れること。それが楽しくて仕方ないんです」

大学時代のボランティア経験を通じて、「違う世代や異なる価値観を持つ人」と出会う楽しさを知ったという中根さん。

社会という大きな枠組みの中で、
一人ひとりの思いや行動がどう積み重なり、
より良い未来を作っていけるのか。

その探求心は、親となった今、さらに身近となった「地域」に向けられていた。

カンボジアでのボランティア活動の様子

インタビュー中、中根さんから「社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)」という言葉が何度か出てきた。
いわゆる、”人と人との関係が様々なプラスを生み出す”という考え方。

子育てで言えば、親がどれだけ地域に多様なつながりを持っているか?
そのつながりは、子どもにとっても、親にとっても、大きな「安心」というプラスを生み出す。

「おじいちゃん、おばあちゃん、同世代以外のいろんな大人が子どもと関わる。そうすると、子どもが親との関係で行き詰まった時に逃げ道になるし、この子にとって『自分は大事にされているんだ』と感じられる場を、一つでも増やせたらと思うんです」

一方で、地域と繋がることは、子どもだけでなく親自身を支えることにもなる。
「一人で育てているわけじゃない」「ここにいていいんだ」と親が思えることの安心感。

その安心感を地域の中で見つけていくことは、子育てのハードルを下げるだけでなく、「社会ってすごく温かいものなんだ」と思える、人生の基盤をつくっていく。

地域とのつながりは「イベント」という旗を探すところから

「地域とつながることが大切」と分かっても、初めの一歩は誰にとっても勇気がいるもの。
どのように中根さんは、地域とのつながりが生まれていったのか、ヒントを教えてくれた。

「いきなり知らないところに行くのは勇気がいりますよね。でも、イベントならハードルが低いです。『来ていいですよ』という設定がされている場所なら、誰かしらと話せるし、足を運びやすい」

一つどこかへ行ってみると、「あそこもいいよ」という情報のつながりが生まれる。

中根さん自身も、意図的につながりを「作りに行こう」とするのではなく、ちょっとした「行ってみたいな」という好奇心に従って足を運ぶうちに、子どもがいてくれるお陰で自然なつながりが増えていったと言う。


一方で中根さんは、これまでのお仕事で人をサポートする立場でもあった。その経験があるからこそ、子育て中の不安や悩みを「地域でのつながり」で解消できる可能性を改めて感じていた。

「困っている人は、何に困っているのかを言語化するのも難しい。自分でも分からないから困っているんです。だから『相談したいことは?』と聞かれても答えられない。でも、地域でのフラットな関係性の中での雑談なら、ポロっと悩みが出てくることがある」

行政などの窓口に「相談」に行くには、気合と準備が必要と感じる人もいる。

しかし、いま中根さんが理想的に思うのは、地域の中にある温かな「眼差し」を通じたサポート。

「まずは眼差しが大事。ニコニコして『可愛いね』と言ってくれるだけで、そこにいていいんだなと安心できる。無理にサポートをしにいくのではなく、安心できる雰囲気を作ること。そこからなのかなと思います」

支援する人、支援を受ける人という壁を作るのではなく、まずは一人の人間として、地域の人として接すること。そのフラットな関係性の中でこそ、本当に必要なサポートが生まれるのかもしれない。

子育てから学んだ「信じて、待つ」

最後にこんな質問をしてみた。

「子育てをしてみて、人をサポートすることへの考え方や行動への変化はありましたか?」

長年、就労支援などの現場で「結果」を求められる役割を担ってきた中根さん。
親になったことで、人を支えるあり方への視点にも大きな変化があったと言う。

「以前は、就労支援の現場で、早く就職できるようにと先回りの提案をしてしまうこともありました。でも、今はもっと『待つ』ことや『相手を信じる』ことを大切にしたい。失敗してもいいから、その人の可能性を信じて、タイミングを待つ。子育てを通じて、その大切さを痛感しています」


加えて、「信じて、待つ」ためには、
コミュニケーションの場の空気感や居心地も大切だと感じている。

先生でも支援者でもなく、同じ地域に生きる一人の人間として対等に向き合いたい。その人に合わせた、居心地の良い場を作れる存在が理想と語る。

その絶妙な空気感や居心地の良さが、誰かにとっての「生きやすさ」に繋がっていく。


中根さんは、子育てと地域とのつながりを通じて、より深く、温かな「まなざし」を進化させ続けていた。

取材後記

インタビュー中にあった、
「社会ってすごく温かいものなんだ、と感じながら生きていってほしい」という言葉から、
地域社会が持つ可能性を信じる、中根さんの強い想いを感じました。

お子さんだけでなく、地域の子育て中のパパママ、そして、全ての人へ向けられたその想い。


中根さんの中で見えている社会は何だかとても温かくて、地域での子育ての可能性について大きな期待感を持った、素敵なインタビューの時間でした。