分かり合えない前提から、
枠を外し自由に歩く。
| 可児市市民公益活動センター Meets

「私は最初から『人間って分かり合えるはずがない』と思ってスタートしているんです。だって、自分が使っている言葉と相手が受け止めている意味が完璧に一致するなんて、あり得ないですから」

その言葉を穏やかに語るのは、岐阜県可児市でNPO活動を支援する「可児市市民公益活動センター Meets」の山口由美子理事長。地域活動や福祉、子育て支援、防災ネットワークのハブとして奔走している。

「相手がどんな意味でその言葉を使っているのかを丁寧に深掘りしたい。すれ違ったまま平行線で会話が進んでいくのが、気持ち悪いんですよね」

すれ違いを受け入れた上で、少しでも共有できる形へ「翻訳」し、その先へ。山口さんの考え方は、人と人との関係性について、新たな視点を与えてくれるものだった。

「伝わっていない」という違和感

山口さんのキャリアの原点は、NPO支援とは少し離れた経験に行き着く。それは大学時代に学んだ言語学だ。

「本当は理系に進みたかったんです。でも親の大反対にあって、急遽文系に転向して。特別に好きでもないけど得意だったのが国語。だから国文学科に入りました」

選んだ専攻は、万葉集や古事記、源氏物語などの時代に使われていた語彙の研究。

「『あはれ』や『おかし』という言葉の中に、昔の人たちはものすごく多様な感情を含ませていたんですよね。言語って『音』と『意味』の2つに分かれていくんですけど、私は『意味』の方、つまり昔の言葉の意味を紐解きたかったんだと思います」

言語の「意味」への探求心。それは昔から『自分が思っている意味で、相手に言葉が伝わっていない』という強い違和感が根底にあった。この違和感を解消したい気持ちは、のちに山口さんが地域社会で展開していく活動の場面にも繋がっていく。


それぞれの「方言」を、共通の言葉に翻訳する

現在、山口さんはNPOの理事長として、現場で活動する団体や住民、行政、企業などを繋ぐ「ハブ」の役割を果たしている。

異なる領域の人々が集まったときに、言葉の壁が大きな障害となることも多い。

「例えば、NPOの人たちが情熱をもって語る言葉は、同じ仲間うちでは『そうだよね』と通じ合えます。でも、企業や自治会の人たちに持っていくと、何一つ伝わらない。それは、彼らがそのコミュニティ固有の『方言』で話しているから」

「自分たちの想いが伝わらないと嘆く前に『自分たちは今、専門的な方言を使っているんだ』と気づくこと。そして、一般の人にも伝わる共通言語へと『翻訳』していく作業がどうしても必要なんです」

企業とNPOを結ぶ現場でも、自治会と市民団体が交わる地域の場でも、山口さんは間に入り、双方の言葉をじっくりと聞いて「翻訳」をしていく。

「お互いに良かれと思って言っているのに、言葉の意味がすれ違ったまま平行線をたどってしまう。まずは『事実として何が起きているのか』をテーブルの上に並べ、お互いの見え方の違いを認識する。私がやってきた仕事は、ずっとこの『翻訳者』の役割だったのだと思います」

互いの言葉を翻訳し、客観的な事実を並べる。それはやり取りをスムーズにするためだけではない。「あなたと私は違う人間であり、使っている言葉も違う」という、健全な境界線を引く作業でもある。


そして、山口さんの「健全な境界線を引く」姿勢は、地域で活動する人たちの間に入るときだけでなく、子育てや介護など、誰かをケアする人たちをサポートする場面でも反映されている。

「寄り添わない」という、もうひとつの愛情

多くの場合、ケアする人をサポートする場面では、「相手に寄り添うこと」「気持ちを受容すること」を支援者はするだろう。しかし、山口さんの見方は少し違っていた。

「よく『もっと相手に寄り添って』と言われますよね。でも、支援やケアにおける愛情の表現って、二つあると思うんです。ひとつは相手を四六時中受容し続けること。そしてもうひとつは、一定の距離を置いて見守り続けること」

「私自身は、相手には自分の足で自由に歩いてほしい。だから基本的には寄り添わない。けれど、もし本当につまずいて落ちそうになった時は、見えない下の方でしっかり支える存在でありたいんです」

遠くで見守りながら、いざというときは助ける。「自分の足で歩く」という相手の課題と自分には健全な境界線を引く。

そして、山口さんはケアする人に向けて、優しくこう語りかける。「1回、その枠の外に出てみてもいいんじゃない?」と。

「必死になっている時ほど、視野がぎゅっと狭くなって『〜しなければならない』という自分の枠に縛られてしまいます。でも、外からのちょっとした刺激や新しい情報に触れることで、『あ、こんな考え方もあるんだ』と気づける瞬間がある。そのための選択肢や情報を出し続けることも、私の役割だと思っています」

枠をはずし、自由に歩いてみる

可児市市民公益活動センター Meetsは、地域のさまざまな団体や人を繋ぐネットワークのハブとなっている。 その運営スタイルは、自前で組織を大きくするよりも、地域にある多様な強みをつなぐやり方だ。

「自分たちの組織を大きくして、すべてを抱え込もうとは思いません。それよりも、地域で活動する多様な団体や個人が繋がり合うネットワークを作っていく方が、ずっと多くの課題をカバーできるし、それぞれの強みが生きる相乗効果が生まれるんです」

自分たちで大きな枠を作るのではなく、それぞれの強みを持った小さな団体や個人を網の目のように繋ぐ「ネットワーク」で解決する。この仕組みは、山口さん自身も大切にしてきた「枠をはずす」という思考にも重なっている。

「子どものころ、親から『この枠の中で生きろ』と言われ続けて育ちました。それがずっと息苦しくて。だから何かの枠にはめるのも、人から決めつけられるのも嫌なんです。思考が自由でなければ、行動だって自由になれませんから」

自分の中にある枠を外し、もっと自由に捉え直してみる。

その軽やかな言葉は、ケアする人にとってもヒントとなる言葉に聞こえた。

「自分の中にある枠を外してみると、見えてくる選択肢は実はたくさんあります。目先のしんどさにとらわれたときは、少し離れて鳥の目のように俯瞰して、時間の流れの中で自分を見つめ直してみる。大きなゴールなんて設定しなくていいんです。枠をはずしてみたら、みんなでもっと自由に歩いていけるはずですよ」

可児市市民公益活動センター Meets

可児市を中心に、NPOや地域活動を支えるコミュニケーション拠点。 会議や作業スペースの貸出、機材・情報の提供をはじめ、日々の活動の悩みやNPO法人に関するご相談まで。地域で立ち上がる想いに寄り添い、人や情報をつなぐハブとして伴走している。
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