まず、自分を好きになる。
人生の三部作を紡ぐ居場所
| 就労継続支援B型事業所 トリロジー(江南市)

語り口はどこまでも穏やかで、包み込むような温かい雰囲気を纏っているが、その人生の歩みは決して平坦なものではなかった。

「自分が自分を好きにならないと、人に優しくできない。まず自分を大好きになることから」

そう笑顔で語るのは、愛知県江南市で就労継続支援B型事業所トリロジーを運営する株式会社幸延の洞谷友博さん。

洞谷さんが辿り着いた、自分を好きになる大切さ、「尊重」という理念、そして利用者や家族に寄り添う情熱。

自身の生い立ちが、どのように今の事業に繋がっているのか、そのストーリーを紐解かせてもらった。

強い劣等感から始まった原点

犬山の城下町で生まれ育った洞谷さん。幼い頃から言葉の組み立てや文章の理解がうまくいかず、学校の授業や周囲の会話についていけない感覚を抱えていた。

「みんなが当たり前にできることが、自分にはできない。言葉がうまく整理できず、複雑な話になると喋れなくなってしまう。周りとのレベルの差に劣等感や苦しさを感じていました」

自分に自信が持てず、大学卒業後もやりたいことが見つからない日々。旅行代理店へ就職するもミスが多く長続きせず、塗装工やアパレルなど職を転々とした。

30代前半、入社した軽貨物運送関連の会社で、エリアの責任者を任されるようになるが、昼夜を問わず連絡が飛び交い、ノルマに追われる過酷な現場で、洞谷さんは心身ともに限界まで疲弊していった。

そんな苛烈な環境でメンタルが壊れかけていた洞谷さんの転機となったのは、エネルギッシュな先輩社員と異動してきた営業部長の存在だった。

「俺のこと嫌いなやつなんて一人もいねえ!みんな絶対俺のこと好きだから!」

こう明るく言い切る先輩の姿は洞谷さんにとって衝撃的だった。その圧倒的な自己肯定感に顧客も仲間も吸い寄せられていく様子を目の当たりにした。

「昔は、何かあると自分ばかりを責めて、劣等感を抱えていました。そんなとき、『俺のことを嫌いなやつなんていねえ』と堂々と言える先輩に出会いました」

「その先輩の姿を見て、『自分を好きにならないと、人に優しくできない』ということに気づきました。そして、先輩のまわりに人が集まる理由が分かった気がしたんです」

もう一人は、大阪から異動してきた営業部長。根っからの関西人で、いつも口は悪いけれども、とても気さくで部下想いの人だった。

「営業部長と仕事をする中で、小さいことは気にせず、堂々としていて、口癖は『どうでもいい』。疲弊していたときによく声をかけてもらい”前に向くこと””過ぎたことや自分に障害がある事はどうでもいい精神”を学びました」

『自分を好きになる』『気にせず前を向く』という強烈な体験は、長年の劣等感や豆腐メンタルから洞谷さんを解放し、『自分のことが大好きだ』と胸を張って周りに言える強さを手にするきっかけとなった。

偏見を抱えて飛び込んだ福祉の現場

エネルギーに満ち溢れた会社に魅力を感じながらも、30代半ばに新たな道へと進む決断を下す。そのとき知人の経営者から誘われたのは福祉の世界だった。

「当初は『給料安そう、汚そう、大変そう、怖そう』という偏見を抱いていて、未経験のまま就労継続支援B型事業所の立ち上げから携わった時は不安でいっぱいでした」

右も左も分からない状態のまま、終わりのない作業と営業に追われる日々。洞谷さんは自ら営業に走り回りながら、事業所で利用者たちと一緒に作業へ没頭した。手探りで必死に体を動かし、声を掛け合いながら同じ時間を過ごす中で、洞谷さんにある大きな変化が起きる。

「忙しい日々の中で、そのうちハッと気づいたんです。最初は関わるのが怖かった障害のある方々と接するうちに、彼らの抱える生きづらさやモヤモヤは、かつて僕が感じていた苦しさとよく似ていると」

自然と利用者との間に温かな雰囲気が満ちていった。周囲への信頼も広がり、事業所の利用者数は1年で増加。「この仕事が本当に楽しい」と心から感じられた時、人生に大きな生きがいを見出していた。

「尊重」と、寄り添う「情熱」

「利用者さんやスタッフを数字やお金として見るのではなく、一人ひとりの人生と心にどこまでも誠実でありたい」

その強い信念のもと、洞谷さんは38歳で独立を果たし、社名は『幸延』、事業所名は過去・現在・未来を繋ぐ『トリロジー(三部作)』と名付けた。

そこで掲げた理念は「尊重」。人間は一人ひとり異なる世界観や「波長」を持って生きているからこそ、安易に変えようとするのではなく、お互いを認め合い、変わるための「きっかけ」を提供する場所を目指している。

この尊重の姿勢は、利用者本人へはもちろん、その家族へのサポートにも表れている。

「以前、高齢の親が引きこもりの子どもを過保護に抱え込んでしまうケースに遭遇しました。80代の母親が家事をして欲しいという理由から50代の利用者さんの娘さんの通所を拒んでいる状況で、娘さんは事業所を辞めたくないけど母親が言うので辞めなければいけないと寂しそうに言っていました」

利用者さん本人の意思であれば卒業という形で送り出せたが、洞谷さんは母親のもとへ何度も足を運び、ひざを突き合わせて娘さんと自分の想いをぶつけた。

「色々と何日も何時間も話し合い心から想いを伝えました。長年一人で不安を背負ってきたお母さんの葛藤を尊重し、まず親御さんに安心してもらうこと。『ケアする人をケアする』ことができて初めて、利用者さんも安心して自分の居場所へと歩み出せるのだと感じています」

その誠実な訴えは母親の心を解かし、娘さんは安心して事業所に通えるようになった。

「最初はすごく頑固でツンツンされていたお母さんだったんですが、想いを伝えてからは変わってくれて。その後は事業所に『元気でやっとる?』って笑顔で遊びに来てくれるようになって、お母さんにも安心してもらえたのかなと思っています」

利用者だけでなく、ケアする家族にも寄り添う姿勢。洞谷さんの中にある、静かな情熱を感じさせるエピソードだった。

安心できる居場所と、地域でつくりたい未来。

日々、現場でエネルギーを注ぐ洞谷さんにも、本来の自分に戻れる「居場所」が存在する。それはJリーグ・FC岐阜の応援だ。家族や仲間とともにスタジアムの「ゴール裏」に立ち、声を張り上げて選手を後押ししている。

「一人の人間として熱狂できる大切な居場所です。あのスタジアムの一体感の中にいると、活力が腹の底から湧いてくる」

自身も居場所によって救われてきたからこそ、居場所の大切さを深く感じている。その想いは、洞谷さんの見据える未来のビジョンにも繋がっている。

将来的には、障害のある人、引きこもりがちな人、職人を目指す人など、誰もが自分の得意を生かして働けて、居場所となるコミュニティをつくる。少し弾んだ声でそのイメージを語ってくれた。

「僕一人では何もできません。でも、お互いを尊重し合える仲間と場所があれば、人は必ず輝ける。誰もが自分を好きになり、安心して生きていける居場所を地域に広げていきたいですね」

経験に裏打ちされた、強い想いと行動力。

洞谷さんなら、誰もが自分を好きでいられる『居場所』を、この地域で創造できる気がした。

就労継続支援B型事業所 トリロジー(株式会社 幸延)

愛知県江南市を中心に、障害のある方一人ひとりの自分らしい働く場と居場所をつくる就労継続支援B型事業所。
各種軽作業をはじめ、日々の生活の悩みや将来の相談まで。一人ひとりの個性や想いに寄り添い、地域や社会とつながるきっかけとして温かく伴走している。
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